寝ても覚めても映像翻訳

海外在住の映像翻訳者による雑記です。

平常心

おかげさまでお仕事4年目に入りました。1~2年目は情熱で片付いていたことが片付かなくなるお年頃ですが、お仕事をくださるお取引先を大事に、作品を大事に、妥協せず、これからも細く長く果てしなく続けていけますように。

 

3年前にB+でトライアルを突破した自分にどんな言葉をかけたいですか?と聞かれたら、迷わずこう答えますね。「スクールの先生に尽くして一生懸命仕事して実力を認められれば、3~5年後くらいにうんと大手の取引先を紹介してもらえると思って目をキラキラさせてるでしょ?そんなシンデレラストーリー存在しないから!せいぜい自力で頑張れよっ!」アデュー、心が清らかだった頃の私。

 

そしてそして、今月は義理の実家で嫁稼業しながら作業しておりました。どうして仕事を抱えて帰省したかって?その理由は2つ。①これまで3年間、毎月どんなに少量でも仕事を続けていることが唯一の誇りなので、意地でもその記録を更新したいこと②四六時中 義理の家族とひとつ屋根の下で過ごせるほどのメンタルを持ち合わせていないため、意地でも部屋に引きこもる言い訳が必要だったことです。あざっす!!

 

しかし、これが予想以上にキツかった。なにせ、メゾネットタイプのどでかいマンションで大人6人と子供5人が寝食を共にするのです。テラスハウスかよ。ただでさえ集団行動が苦手な私にはハードルが高すぎました。そのうえ、ことあるごとに義母から、チェックバックをはるかに凌ぐ細かいチェックがガンガン入る。

 

「パンツは手洗いしなくちゃ」(なのにブラは普通に洗濯機で洗うんですね)

「洗濯機にはもっと洗剤を入れないと」(けっこうドバっといくなあ)

「食器を洗うのに洗剤は不要。熱湯でOKよ」(どういう基準で…?)

「パンツの干し方、それじゃ乾かないわよ」(木製のハンガーにカビ生えてますけど)

「そんなふうにイチゴのヘタを切るの?いいわ、私がやるから」(こまけーな) 

 

こういうタイプのマイルールが多い翻訳者に当たったチェッカーさんは大変だろうなあ…いや、いないと思うけれども。

 

幸いなことに肝心の案件は軽めのドキュメ、おまけにシリーズ最終担当話だったのでいろいろスムーズに進められて本当に助かりました。これがサイコスリラーとか凶悪殺人ものとかだったら、図らずも道を踏み外していたかもしれません。それほどまでに、平常心で作業するのが非常に難しかった。それでも、次回も仕事を持って行くかと聞かれたら、イエスと答えるような気がします。やっぱり翻訳してる時が一番心穏やかなんですよね。分かってはいたものの、仕事をするにあって自宅に勝る場所はないと痛感しました。ワーケーションとか、絶対に無理なクチです。いよっ!引きこもりの鑑!!

 

ということで、おかげさまで無事に生還して自宅を満喫しております。あー楽ちん。4年目の目標は、たった1つ。新規開拓。これに尽きます。耕せ!種をまけ!切り拓け~!!

歳月

おかげさまで無事に日本滞在を終え、さっそく現実に引き戻されております。記憶がフレッシュなうちにあれこれ記しておこうと思いつつ、あっという間に2月になってしまいました。休暇明け1発目のお仕事を1月下旬にねじ込み、ありがたくも2月は新規案件で大体埋まり、その合間に10万年ぶりのトライアルをぶっこみ、またまたその間にタミル語クラスの予習復習をバッチリこな…せてるわけないんですが、できるかぎり頑張ってます。

 

前回の日本滞在は丸5年前でしたが、何が感慨深いって、あの頃から今に至るまでの己の成長具合ですよ。というのも、5年前といえばまだスクールに通う前の時期で、情報収集も兼ねて先輩たちのブログを片っ端から読み漁っていたんですよねえ。BOOKOFFで『タイタニック』(戸田奈津子先生)と『マンマ・ミーア』(石田泰子先生)と『ソーシャル・ネットワーク』(松浦美奈先生)をゲットし、なるには系の本や業界紙をありったけ持って帰りましたっけ。それが今回はどうですか。いつの間にやら、かの先輩たちと個人的に交流するポジションまでたどり着き、日本滞在を口実にアポを取り、一緒にコーヒー飲んだりキャッキャしたり名刺交換したりして、5年越しに無事にストーカーを卒業しましたよ。なんという進歩でしょう。まあ、5年の歳月が経ってるわけですから、ね…。ちょっとは前進してないと困るわけですが、振り返ってみると涙腺が緩んじゃうわけです。

 

なんて言ってる間にやってきた新規案件のスタイルガイドを拝読していたら、「翻訳者名等のクレジットは取り除いてください」という一文を発見して、別の意味で涙腺が緩んでます。「取り除く」?これは…えーと??念のために手元の辞書の定義を調べてみませう。

 

「不要なものを取ってなくす。取り去る」(明鏡国語辞典

「おおっているもの、上にあるもの、表面にあるもの、また、邪魔になるものなどを取ってほかの場所へ移す。排除する。とりのぞく」(精選版 日国)

「不要なものを取ってなくす。取り去る」(大辞林

「取ってなくす。とりのける」(デジタル大辞泉

 

なるほど。書き方を和らげれば涙も止まると思うので、考えてみました。(どんだけヒマなんだ)

 

クレジットは不要です。

クレジット抜きでご納品ください。

クレジットはご遠慮ください。

クレジットはお控えください。

クレジットなしでOKでーす。

 

これならどれでも、個人的には「あ、はい、承知しました!」と言えそうですが、いかがでしょうか(何が)。5年後の今頃には、こういうクライアントさんをお取引先から「取り除く」ことができているとよいのですが…!精進、精進。

おもてなし

5年ぶりの日本滞在まで1週間を切りました。3月に航空券を取り、7月に子どものパスポート更新(受け取るまで3か月かかったYO!)、同じく7月にお宿4か所を予約し、今月上旬に4回目のワクチンを済ませ荷造りは93%完了、あとはドキュメ1本を月曜に納品するだけ!という段階までやってきました。よしよし。ちなみにこのドキュメ、時事的に大変タイムリーなジャンルで案外訳しやすい、そして見慣れた景色がバンバン出てくるのでうれしくって涙腺崩壊、おまけにリアルで存じ上げてる翻訳者さんと共訳、という超ボーナス案件。今年の運は使い果たしたかと思っていましたが、最後の最後に打ち上げ花火がヒュ~ドン!です。

 

さてさて、ひっさしぶりの日本を満喫すべく、予約できるものは早めに予約しとこうと前のめりでガンガン進めているわけですが、三鷹の森ジブリ美術館は海外からの予約が不可能(へ?)、新幹線の座席をえきねっとで予約してもカード決済でエラー×5回(え?)、すまーとEXでリベンジを図っても海外の電話番号NG(は?)、Visit Japan Webの手続きで子どものパスポートが読み込まれずあの手この手で10回トライしてギブアップ、その他ヘマをするたびに「入国・帰国の予定」を登録しなおし、ボツになったやつは削除できず3バージョンの入国予定が出来上がり…というわけでさっそくあちこちで出鼻をくじかれています。これは「おもてなし」というより、「ひらてうち」の感覚に近い。

 

そしてそして、超ウルトラスーパー大事な会議に出るためアメリカ出張中の夫が、同僚ケビンの調整ミスで予定どおり帰宅できなくなり、アメリカから羽田入りするハメに。なんじゃそりゃ。お子たちを引率しながらスーツケース2個転がせるのか未知数ですが、Impossible Is Nothingらしいのでまあ何とかなるでしょう。そして、責任を感じたケビンが当日空港まで送ってくれることに。頼むぞケビン。

 

というわけで行く前から踏んだり蹴ったりです。どうかどうか、無事に到着できますように。

2022年 下半期まとめ

「オマエ気が早いぞ」というツッコミが聞こえてきそうですが、ここらで今年の下半期をまとめておきたいと思います。今年は12月中旬からお休みに入るのですが、今週に入ってからバタバタとご依頼が舞い込み、お休み直前までスケジュールが埋まりまして、ありがたくも今年の受注はストップと相成りました。では、まいります。

 

映画×1(英語/85分)

ドキュメンタリー×3(広東語/100分、英語/80分、45分)

短編映画祭 ×2(他言語/計30分)

ドラマ(他言語/45分)×3

ドラマ(英語/25分)×5

映画リライト×1(中国語/155分)

トレーラー×2

 

その他 周辺作業:

シノプシス翻訳×1

スポ&訳文貼り付け×5(企業動画、イベント動画等あれこれ大量に)

スポ調整×1(映画丸ごと130分)

聞き起こし&ベタ訳作成×1

 

なんだか、周辺作業がとっても多い数か月だったように思います。翻訳脳を使わなくていいのでいい息抜きにはなりますが、あんまり重なると下積み感が拭えませんねえ。しかし今年の後半はいろいろと振り切れたようで、心が動かない仕事は断れるようなりました(もちろん、お断りする際は「心が動かないのでやりません」なんて言ってませんよ!)。売上はそこまで伸びませんでしたが、無理して体調を崩すようなヘマはしなかったし、週末もそれなりに週末らしく過ごせたし、去年の今頃に比べてずっと心穏やかにお仕事できるようになった気がします。作業スケジュールを保守的に見積もりすぎて、キツキツのつもりがユルユルになったことが幾度があり「あー、もうちょっと頑張れたなあ」と悔やんだりもしましたが、まあ逆のパターンよりはマシでしょうか。

 

かれこれ1年半ほど新規のお客さんが見つからず、自分からアクションを起こしても全く物事が動きませんでしたが、ここにきてやっと1社出会えました。どうかどうか、よいお付き合いになりますように。下半期の教訓はズバリ、「自力での新規開拓には限界あり」です。以上!

インド映画鑑賞記録

少し間があいてしまいましたが、お仕事の合間に鑑賞していたインド映画たちです。

 

『バーフバリ 伝説誕生』(ヒンディー語吹替)

『RRR』(ヒンディー語吹替)

『家族の四季 愛すれど遠く離れて』(ヒンディー語

『チェンナイ・エクスプレス 〜愛と勇気のヒーロー参上〜』(ヒンディー語

『ラーンジャナー』(ヒンディー語

『K.G.F: Chapter 1』(カンナダ語

『Don』(タミル語

『REMO』(タミル語

『響け!情熱のムリダンガム』(タミル語

ボンベイ』(タミル語

Beast』(タミル語

『Mersal』(タミル語

『サルカール 1票の革命』(タミル語

Pa Paandi』(タミル語

『トリッキー・ワールド』(タミル語

『無職の大卒』(タミル語

『セットゥム アーイラム ポン ~死後に残るもの~』(タミル語

 

こちらの視聴環境で日本語字幕付きで鑑賞できたのは『トリッキー・ワールド』の1本のみ(藤井美佳さんの字幕、すばらしかったです…♡)。あとは全て英語字幕でしたが、毎回毎回、かなりの頻度で字幕が読み切れません。日本語字幕であれば視界のはじっこでササッと処理できますが、英語はそうにもいきませんねえ。トホホ。ちょっと詰め込まれちゃうと途端に置いていかれます。歌詞字幕を読んでると踊りを見逃すし、踊りに魅せられてると歌詞字幕を見逃すし、字幕を読んでると美男美女を見逃すし、美男美女に見とれてると字幕を見逃します。そんなわけで映像か字幕のどちらかをやむを得ず諦めるわけですが、それが結構なジレンマです。最低あと2~3回は観ないとダメかも。

 

そしてそして、満を持して推しをご紹介いたします。タミル語映画界の大スター、ダヌシュです。ライアン・ゴスリングがお好きな方は、『グレイマン』でクリス・エヴァンスに「Hello my sexy Tamil friend」って呼ばれてたあの方だと言えばピンとくるかもしれませんね?先日道端でタミルの友人にばったり会った時、覚えたてのタミル語で「こんにちは。好きな俳優はダヌシュでーす。」と言ってみたら「もう一回言ってくれ」と命じられ、その場で動画を撮られました。しまいには「僕の親戚がインドでメイク係やってるからダヌシュに送ってもらえるか聞いてみるよ!」なんて言ってましたが、やめてくれ。

 

なんというか、向いてないと自覚している仕事を頑張った結果、向いてない仕事ばかりが転がり込むようになり最近ちょっと凹んでいるのですが、インド映画を鑑賞し、新しい世界に触れ、新しい言語を学ぶことで、心の老廃物が排出されるような気がします。ウソみたいな本当の話なのですが、去年までは自律神経が乱れがちで片頭痛&嘔吐のフルコースがお決まりだったのが、インド映画を定期的に鑑賞するようになってから目に見えて体の調子がよくなりました。なんか具合悪いんだよねえ…というお方は、ぜひインド映画をかじってみてくだせえ。

 

お別れはダヌシュのお歌をどうぞ。どうですかこの身体能力。

 


www.youtube.com

嗚呼、広東語

目下、広東語ドキュメと格闘しています。これ、個人的に一番不得意なジャンルかもしれません(オマエ、この間、リライトが苦手だと散々嘆いていたではないか)。

 

ここ数か月、同一の制作会社さんから香港絡みの作品ばかりやってくるのですが、このまま広東語要員に収まってしまいそうで不安が拭えません。ご依頼時に「中国語の作品です」と言われてホイホイ受ける→フタを開けたら広東語、というパターンが続いています。いい加減学べよ。これが終わったら、次からは何が何でも普通語か広東語か明記してもらうようにしよう。先方が違いを分かっていらっしゃらない可能性がかなり高いので、こちらからきちんとご説明しないと。

 

何が厄介かって、話の途切れ目が全然分からないのですよ。話者が若い世代の方ならハッキリ分かるんですが、ある程度上の世代の人たちのよどみない広東語はマジで&*$#@です。何とか中国語字幕つきの映像を入手して、字幕が表示されるタイミングに合わせて原文を入れていくわけですが、労力がかかるんだこれが。再生、停止、再生、停止、巻き戻し、巻き戻しすぎて早送り、早送りしすぎて巻き戻し、再生、停止、再生、停止…をハコの数だけ繰り返す。ああ、クラクラする。

 

おまけに、ご存じでしたか?媒体によって中国語字幕の内容が微妙に違うんですよ、奥さん。字幕から漂う「あーここは言い換えてるだけだから省略でいっか」とか「なんかよく分かんないけど多分こんなこと言ってるよね」というテンション。気持ちは分かる。が、結構困る。

 

いつだったか、欧州の作品を受注したのち、突然ストップがかかって広東語の作品と差し替えになったこともありました。その後、両作が時を同じくして配信に至った時は何ともいえない複雑な心境に。「あ、広東語!とりあえずオバトラに回しといて!」ってことだったんでしょうか。まさかね…

 

極めつけに、どこかの制作さんが対応しきれなかった中古広東語案件が回ってきました。ご事情はよく分からないのですが、別に素材に問題があるわけでもなく、フツーのドキュメでした。あれは一体何だったのか。

 

…とまあ愚痴ったところで残りの枚数が減るわけでもなし。普段どおり、コツコツと最後まで進めるだけでございやす。しかし、本気で舵取りを検討せねばならない時期に来たのは確かですな。ブツブツ…

 

誤解のないように記しておきますと、香港と香港の人々はめちゃくちゃステキでスキ・スキ・ダイスキです。本当に、本当に、作品に救われています。だからこそ、どれだけ大変でもやり遂げたいのです。ビシッとキメるぜいっ!!!

リライト再び

懲りずにリライト案件をお引き受けして自分で自分の首を絞めています。今月は前半にのんびりしすぎまして、久々のドラマ案件も素材のご支給がズレにズレまくり、ふと気づいたら売上が芳しくなかったもので、ついつい尻尾をフリフリして…ゴニョゴニョ。ガチガチだった前回よりは肩の力を抜いて作業できてると思うのですが、やはり苦手意識が拭えません。つくづくリライトというのは自分には向いていない、と思いますです。

 

今回も字幕が焼き付いた旧DVDの映像ファイルは頂戴できましたが、やはり原文スクリプトのご支給はなし。キツイぜ。旧字幕だけを頼りにして作業するのと、原文を参照しながら進めるのは天と地ほどの差があるのに…。原語が英語なら多少は聞き取りでフォローできるんですが、あいにく広東語なので撃沈です。はい、ワンアウト。ここから翻訳者のプライドを賭けて、死にもの〇るいでネットにスクリプトが落ちていないか鬼検索をするわけですが、それなりに昔の作品なのでどうしても見つからず。運にも見放されてあっという間にツーアウト。何とか中国語字幕付きの映像を動画サイトで見つけたのですが、これはつまり…その…違法にアップロードされたブツですね。成果物の質を上げたい一心で悪事に手を染めるのは良心が痛みますが、仕方ありません。

 

さて、前回は旧DVDの映像を流しながら1枚ずつ書き写しつつ、その都度手を加えて「よし、これで全体の〇割直したぞ」なんて確認のためにちょこちょこ計算までしていましたが、それではあまりにも効率が悪いことを悟り、今回は最初に旧字幕をダーーーーーッと最後まで書き写してから頭に戻ってリライト→見直しながら調整する作戦に出ました。オマエ、3度目にしてようやく学んだか。しかしリライトというのはあれですね、キレイに仕立てられてまだまだ着られる昔のステキなお洋服の裾をチョキンと切ったり、ボタンを付け直したり、袖やリボンの形を変えたりしながら、全体のバランスが崩れないようにするわけですが、さじ加減が非常に難しい。何というか、継ぎ接ぎだらけの不格好なものが出来上がってしまいそうで毎度ガクブルです。同一の翻訳者が時を経て手を入れるならまだしも、他の人間にやらせると全体のバランスがガタガタになってしまうと思うんですが、考えすぎでしょうか。そのバランスをササッと整えられるのがプロというものなのでしょう。ぐぬぬ

 

今回も動画サイトの中国語字幕を1枚1枚参照しているわけですが、ところどころ一瞬で消える字幕を読み直すために前後に10秒進んだり戻ったり、地味に手間がかかります。おまけに「ああ、お上手。こりゃー逆立ちしても出てこないや」という旧字幕が何枚も続くと、いつの間にか涙目ですよ。今後リライトのご相談がきたら、潔くお断りすべきなのかもしれません。いや、でもそれじゃあいつまで経っても成長しない。リライトを制する者は字幕を制する者。そんな格言はどこにも存在しませんが、やはり今回も己の実力不足を突きつけられた一件でございました。