寝ても覚めても映像翻訳

海外在住の映像翻訳者による雑記です。

三度目の正直

少し前に納品した中国の作品で、非常に難解な漢詩にぶち当たったことがありました。大抵はきちんと調べれば、日本語の書き下しやネイティブによる解説文が見つかるものですが、この詩に至っては血眼になって探しても情報がメイヨー。困り果てて知り合いのネイティブ4人に助けを求めると、

 

友①「ワカンネ」

友②「マジでワカンネ」

友③「分かんないけど頑張ってみる」

友④「超ムズイけど頑張ってみる」

 

という返答が。むむむ。そして予想どおり、友③&④の苦心の現代訳と、お取引先ご支給の英語スクリプトがそれぞれ全く異なる解釈というカオスに陥ったわけですが、「これこれこういう事情ですのでかくかくしかじか大変難解でして…モゴモゴ」と申し送るまでには至りました。そんでもって苦し紛れに、原文のムードを壊さないように心がけつつ、各解釈のエッセンスを汲み取りつつ、なんとか訳文をこしらえたのでありました。

 

そして納品から1か月ほど経ったある日、クライアントさんからのフィードバックが届き、唯一代案を求められたのがこの忌まわしき漢詩の部分でした。だよね…。「できるだけ分かりやすく」というご要望のもと、脳みそを絞りながら可能なかぎり噛み砕いた修正案を提出し、「やっぱ初稿は攻めすぎたか…」と反省するのもつかの間、翌日再度お取引先から「チェッカーさんの申し送りをもとに再修正案を」とのご連絡が。あわわ、修正案もダメ出しを食らっていたとは!なんつーポンコツ訳者なんだ私は…

 

しかし、この申し送りがすばらしかった。チェッカーさんが作成した、A4ビッシリのピカイチ詳細レポートを拝受したのです。これまでの解釈とはこれまた異なる素訳を作っていただいたので、それを拝借したうえで練り直すことに…。果たして三度目の正直となるのか。そうして出来上がった修正案2.0に、さらに微調整を加えていただいて(オイ)、翻訳者、チェッカー、ディレクターによる3人4脚の漢詩の訳文がやっとこさ完成したのでした。たぶん。あれから音沙汰がないので、そういうことだと解釈していますが、真相はいかに。

 

こういう時に、一発でパシッと決められないのが情けない。実力不足以外の何ものでもありません。お取引先には根気強くお付き合いいただいて、恐縮しっぱなしです。チェッカーさんには、できることならお中元をお贈りしたい…字幕というのは決して独りで作り上げるものではない、という当たり前の事実を痛感した一件でした。

 

ちなみに、初稿のトンデモ訳文は丸ごと吹替原稿にコピペ(!)されてましたが、あの原稿の行方が何より気がかりです…どうかあちらも、然るべき修正が施されますように。