寝ても覚めても映像翻訳

海外在住の映像翻訳者による雑記です。

音にまつわるエトセトラ

華流ドラマを訳していて、いつもズッコケずにいられないのが「音」に関するアレコレ。笑いの沸点が低い私は、何度同じシーンを見返してもツボにはまってしまいます。ゆえに、ただでさえノロい作業がなかなか進まないわけなんですが。

 

まずは効果音。ご親切にベタなヤツがあっちこっちに入ります。

「イケメンが出てきました」→キラキラキラキラ〜

「これはボケです」→ポヨヨヨヨ〜ン

「これから悪役が悪さをします」→ズズンズーン

ストーリーの解釈に誤解や推測の余地を一切与えません。翻訳者としては助かります。ありがとよ!

 

そして“配音”と呼ばれるアフレコがこれまた強烈。華流作品を観てて、直感的に「あの顔にこの声、何か違和感が…?」とか「その口の動きで、なんでそんな滑舌いいの?」って思う方、いらっしゃるかしら。今回もスタッフ&キャスト表を頂戴したので確認してみると、やはりいました、配音チームがズラッと勢揃い。主演の俳優さんたちの声をかき消して、プロの声優さんたちが担当してらっしゃいます。ぶりっ子はぶりぶり声、S男はオラオラ風、王子様キャラは甘く囁くような美声(ヘッドホンで聞くとヤバイ)と、皆さん極めてらっしゃる。かなりの確率で映像とシンクできてないのですが、そこはご愛嬌。お国が違えば、鑑賞ポイントだって変わります。美男で目の保養をしつつ、他人様の美声に酔いしれる。一度で二度オイシイというわけです。

 

プロの声優さんですから、これ以上ない完璧な普通話で発音も申し分なし(←アンタが言うな)。セリフをハッキリとしゃべってくれるので、IN点が取りやすい。これも翻訳者としては助かります。ありがとよ!

 

ただ、個人的にどうしても気になるのが、俳優さんたちのプライドが傷つかないのか、という点。それで中国出身の友人に聞いてみたんですが、「あのねえ、どーせ最近のドラマなんて売り出し中の歌手とかどっかのモデルなんかが主演なんだから、演技できなくて当たり前、アフレコが常識なの!」とのお答えが。キ、キビシー!俳優さんたちは、「顔芸とジェスチャーだけ頑張ればいいからラッキー♪」とか思ってるんでしょうか…。ものすごい真剣なシーンで俳優さんが棒読み、とかもあるんでしょうか。奥が深いんだかどうなんだか。

 

それでも主演の方々の生のお声が気になってしょうがなかったので、インタビュー動画を探して見てみました。…で、いろいろ納得。ほらほら、そういうことしてるから増々作業が滞る。

 

そういえばずいぶん前に、金城武金城武に声をアテる豪華共演作品を拝見したことがあります。何語から何語の吹き替えだったかは覚えてませんが、あれは稀な例でしょう。

 

最後は音楽。オープニングテーマと劇中歌が、ことあるごとにエピソードの途中にねじ込まれます。もれなく歌詞のテロップもついてくるんですが、これは大陸の制作サイドからの「歌えるようになってください」というメッセージと受け止めて、頑張って覚えています。テロップのフォントが筆書きみたいでステキ!

 

最初に歌詞テロップが出てきたのが私の担当話だったので何も考えずに字幕にしましたが、あとでハタと気づいたのです。もうお一人の翻訳者様に「くっそー、アンタが字幕に出したらアタシもやれって言われちゃうじゃない。仕事増やすなよ、このおバカ新人」とか思われてるかも…と。幸い、これまでは私の担当話ばかりに歌が入ってますが、今後は分かりません。ブルブル…

 

肝心の翻訳作業の方は、来週の納品でやっと3分の1が終了です。もうそろそろキスシーンが来そうで、ドキドキ、ハラハラ、ムラムラ…雑念まみれの汚れた心を純愛ドラマに浄化していただく日々が、まだまだ続きます。