寝ても覚めても映像翻訳

海外在住の映像翻訳者による雑記です。

ミッション:インポッシブル

「視聴者に考えさせてはいけない」

 

スクールで学び始めた時に先生から頂戴したお言葉です。授業中にテキストを説明しながら、はたまた課題にコメントしながら金言をサラッとこぼされる先生でしたので、その度にパソコン上でガシガシとメモを取りつつ、授業後にまとめておりました(興奮しながらタイプしてたもんでタイポがそりゃもうひどい)。修了するころには100つ近くまで蓄積しており、個人面談の時に「実は先生の金言集がここに…」と一気にお見せしたら「何ですかコレ」と大笑いされたのも今ではいい思い出です。我ながら、ウザい受講生だったなあと思います。

 

実はお仕事中、この「考えさせてはいけない」件について考えさせられたことがありました。

 

「不可能」という中国語の頻出フレーズ、耳で聞くと「ブカナン」と聞こえます。お察しのとおり「インポッシブル/ありえない」の意味ですね。「まさか○○が××を?」「ブカナァーン(んなわけないでしょー)」というふうに使います。ある日の作業中この「ブカナン」が出てきまして、俳優さんの表情にピッタリくるので「バカな」と字幕をつけたことがありました。すると…ご想像いただけますでしょうか。「ブカナン」と「バカな」の音がどれだけ似ているかを。映像を見ると俳優さんが本当に「バカな」と言っているように見えるではありませんか。

 

こ、これでは視聴者に「今、一瞬日本語しゃべった?」と考えさせてしまう…!?でも字数厳しいし、このシーンは「バカな」がドンピシャだし、一体どう対処すれば!?これぞミッション・インポッシブル。

 

まあしかし冷静になると、「考えさせてはいけない」というのは、視聴者が「ん?今の字幕どういう意味?」と考えている間に映像に置いていかれてしまうからであって、このケースは音が似てるってだけだから厳密にはセーフ…よね?と無理やりこじつけドギマギしながらそのまま納品、チェックも入らないまま事なきを得ました。

 

という、しょうもない話でございました。ちなみに、『ミッション:インポッシブル』シリーズで一番の傑作は2作目だと個人的には思っています。いや、本音を言うと1作目も捨てがたいのですが、なんてったって2作目は全盛期のトムがヘリコプターからワイヤー使ってグイーンと降りるぞーっというシーンを100倍ズームくらいにすると、背景にうちの近所がバッチリ映っているのですよ♡キャー!